発 行: 2002年6月
著 者: 山家 公雄/西村 陽
ISBN: 978-4-930986-77-X
[電力自由化シリーズ]
エネルギー業界の巨人、かつ日本の電力業界にとっては「黒船」とまで言われた米国エンロンの経営が破綻(はたん)してから、ほぼ半年が経過しましたが、米国ではいまだ事件の解明の途上にあり、その全貌はなかなかつかみにくい状態です。また、そのビジネスモデル自体についての評価も、評価する側の立場によって大きく異なり、広く認知された定見はいまだありません。
そうした状況にあってエネルギービジネスに精通した著者2氏による分析は、エンロンの破綻劇から何を学ぶべきかを明快に指摘しています。
特に米国キャピタリズムにおけるエンロンモデルをとらえた山家氏は、そのモデルが「社内外の多くの関係者に利益相反行為を引き起こす誘因を内包していた」ために、同社の問題が会計監査会社、金融機関、行政といった資本主義を支えるはずの基本的なシステムへの信頼性を揺るがすこととなった、と鋭く指摘します。
一方、西村氏は、アセットに裏打ちされた最強のビジネスモデルが、短期株主利益追求へとシフトした同社の路線変更を読み取り、「エネルギービジネスは、少なくとも今のところノンアセットで継続的に高い収益をあげるようなビジネスではあり得ない」と説きます。さらにそこから、電力・ガス会社が競争を勝ち抜くヒントは、長年取引を重ねてきた「地域」そのものであると展開する論は、制度改革のさなかにあるエネルギー事業者にとって極めて示唆的であるといえます。